1 太陽系で最小の惑星
太陽系の惑星は、大きく「地球型惑星」「木星型惑星」「天王型惑星」の3種類に分けられます。「地球型惑星」は金属や岩石などの重い元素で構成されていて密度が高く、鉄の核をマントルと地殻が覆い、地球のほか水星、金星、火星がこのタイプです。
水星は太陽系の惑星のなかで、大きさ、質量ともに最小の惑星です。核が全体の大部分を占めているという特徴があります。水星の赤道面での直径は4879.4kmと、地球の38%に過ぎません。水星に衛星や環はありません。
水星の質量は地球の0.055倍と10分の1で、地球に比べておよそ0.38倍の重力しかありません。わかりやすくたとえると体重が軽くなり、ジャンプをしてみれば地球の約3倍高く飛ぶことができるのです。
水星は太陽にもっとも近いことから昼間の最高気温は約430度、夜になると-180度と気温差が激しく、地表の温度の平均は180度ほどだといわれます。昼間は太陽からの放射熱を直に受けて灼熱となり、夜はすべての熱を放出するため極寒となります。
この寒暖差は、太陽系の惑星のなかで最大だといわれます。恒星である太陽の周りをそれぞれ回っているため公転周期によって差はありますが、もっとも近い時で太陽から9300万km、もっとも遠い時で約2億850万kmとなっています。
地球での1年は365日です。水星は太陽の周りを非常に速く回っているため1年はたった88日です。太陽との距離が近い分重力の影響を強く受けているので、速く回ることで発生する遠心力と相殺しないと太陽に吸い寄せられてあっという間に飲み込まれてしまうのです。
太陽の重力によって公転が速くなる一方で自転は遅くなります。自転周期は約59日でこの間に公転もしているため、人間が定義するように1日を太陽が昇ってから次の太陽が昇るまでとすると、176日もかかってしまうのです。自転を1日公転を1年と定義すると、水星の1日は水星の2年間と同じということになります。
2 月と似た環境
1973年11月3日初めて水星に接近したのはマリナー10号でした。金星の重力を利用して減速してから水星へ向かったのです。マリナー10号は水星の表面の44%の撮影に成功しました。地表の4割強の地図が作成できました。
昼間は3か月、日中の表面温度は400度、夜はー180度まで冷え込みます。水星の表面は驚くほど月面に似ています。水星では地球のような地質活動が惑星誕生後すぐに止まったため、初期の惑星の姿をそのまま残していると考えられています。
水星の地表を特徴付けるもう1つの地形は、惑星の広い範囲に散在する高さ約2km長いものでは500kmに達する線構造があり、リンクルリッジと呼ばれる断崖と考えられます。水星の内部が冷却され、半径が1~2kmほど縮む過程で形成された「しわ」であると考えられています。
探査機は水星特有の地形も発見しました。地表のいたるところに長さが数100キロにも及ぶ奇妙なしわが分布していました。これらは高低差1~2キロに達する断崖で、初期の水星が冷えて収縮する過程で地表が押し締められてできたと考えられています。
太陽が水星に与える潮汐力は地球が月に与える力の約17倍と推定され、そのため水星では赤道部分が膨らむ潮汐変形が起きています。学者によってリンクルリッジは太陽の潮汐力の影響という異説もあります。
水星で最も特徴的なのは、直径の4分の1以上に相当する直径1,300kmほどのクレーター群からなるカロリス盆地。これは誕生したばかりで火山活動が活発だった水星にいくつもの彗星や隕石が衝突を繰り返して形成させたと考えられています。
気圧は10のマイナス7乗程度と推測され、その成分は主に水素、ヘリウム、他にナトリウム、カリウム、カルシュウム、酵素などが検出されています。この大気成分は一定せず、強力な太陽風によって絶えず供給され、宇宙へ放出されています。
3 水星には氷がある
1992年にアメリカのゴールドストン深宇宙通信施設とアメリカ国立電波天文台の電波望遠鏡によって、水星には氷が存在していることが確認されました。極に近いクレーターで太陽光が全く当たらない永久影は常にー170度以下に保たれているためです。
2019年11月、水星が太陽の前を横切る様子が観測されました。水星の地表温度は430度にも達しますが、その水星で意外なものが捉えられました。クレーターの陰になっている部分に存在していたのです。
クレーターの陰に小さく光る点をみつけ出し、その光る点のデターを地球の物質と照らし合わせてを確認しました。クレータの底に氷が確認されたのです。水星の表面は非常に高温ですが、クレーターの底の部分は永久に日陰のままです。
太陽光線が当たらないので、氷ができるほど低温になります。この氷はどこから来たのでしょう。当初は彗星や小惑星が運んできたと考えられていました。ところが最近の研究では、氷を構成する原子が太陽から来たというのです。
太陽からは水素原子の核である陽子が全方位に放出されています。それは太陽系の惑星に降り注ぎます。水星に降り注ぐ太陽風は強烈で、地中の鉱物を元素に分解してしまうほどです。この元素の中に酸素が含まれていていれば水素と結合して水になります。
宇宙は太陽から吹く風、時速150万キロの太陽風に満ちています。太陽風の陽子と水星の酸素が結合して水の分子が発生、日の当たらないクレーターの中で凍ります。水素と結合した水はクレーターの中なら気化せずに残るでしょう。
水星探査機「メッセンジャー」の探査によると、地下には大量の氷が眠っていると考えられる証拠が発見されました。北極点に当たる部分には太陽光が届かず常に日陰になっているので、この場所では氷が溶けることなく残っているそうです。
地球にもまた太陽風を受けています。いまも粒子の攻撃に絶え間なくさらされているのです。地球には幸運にも磁場のバリアがあります。大気も飛来する有害なものを吸収してくれますが、その大気があるのは磁場が太陽風を防いでいるからです。
4 水星観測の難しさ
水星は太陽に非常に近いため地球から水星を観測する場合、日の出直前と日没直後のわずかな時間しか観測できません。また、地球と水星と太陽の位置関係によってはたとえ望遠鏡を使っても観測は難しいのです。
地球からの直接観測だけでなく、地球から水星へと探査機を到達させる事も比較的難しいため、21世紀に入っても依然として判らない点の多い惑星です。
宇宙航空研究開発機構<JAXA)と欧州宇宙機構(ESA)の共同プロジェクトで、2025年12月に探査機ベピ・コロンボが水星へ送り込まれます。その後、水星の周回軌道に入り約1年間にわたって観測を行う予定です。
マリナー10号は水星に磁場があることを発見しました。なぜ磁場があるかいまだにわかりません。2004年8月3日にメッセンジャーが水星へ送られました。
探査機は水星の周回軌道にとどまり観測するために、太陽の熱に耐えられる機体を開発する必要がありました。450度以上になる昼からから夜はマイナス180度という夜に移動しなければなりません。600度を超える温度差です。
この過酷な温度差に耐えられる機体の開発に15年もかかりました。打ち上げから7年かけて水星にたどり着いたメッセンジャー、水星の大きななぞ、磁場について新しい発見もたらします。彗星の磁場は地球と同じように南北の極から発生していました。
しかし、左右対称ではありませんでした。太陽風に吹き付けられているためです。更に磁場の中心は彗星の中心より20%も北にずれていました。メッセンジャーは水星の表面を高解像度カメラで撮影しました。
メッセンジャーは水星を4年間探査しました。そして最後にメッセンジャーを水星に落下させました。次に水星へ向かう探査機のためにです。2018年10月20日、水星探査機ベビコロンボが打ち上げられました。
水星探査機ベビコロンボは、ヨーロッパと日本が共同で進められたものです。ヨーロッパは「MPO」という水星表面を調べる探査機、日本は「みお」という水星磁気圏探査機です。二機は連結して水星へ向かい、協力して探査を行います。
参考文献:水星(国立天文台)、水星(BS11)など。