はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第38章 大規模修繕への道(2)

大規模修繕協議会主催の第36回大規模修繕セミナーが札幌市産業振興センターで開催されました。講師は泉徳彦札幌支部長です。講演内容は設計管理方式で行う大規模修繕の進め方でした。要約して掲載します。

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1 設計管理方式の大規模修繕

 1) 設計事務所の選定

設計事務所は管理組合の立場で、大規模修繕をスムーズに進められるようにサポートします。設計事務所の業務と役割を見てみましょう。

業務役割
建物調査診断建物の劣化現状を把握
工事概算金額書作成想定される工事内容・金額を把握
修繕設計積立金を踏まえた工事内容の優先付け予算を考慮
施工会社選定補助公明性・透明性・競争原理※同一条件で選定が可能
工事監理品質確保、追加工事の必要性を判断
アフター点検保証期間内にメンテナンス

 2) 設計事務所選定の流れ

理事と修繕委員の都合を調整して、余裕を持ったスケジュールで勧めていきます。

設計事務所選定

 3) 管理会社が見積もりに参加

設計施工の見積もりに管理会社が参加している場合、コンサルタント選定の段取りを実施します。管理会社は7社程度の設計事務所を紹介し、全社の見積もりを取得して比較表を作成します。管理会社が最安値で提案する場合もあります。

この場合、公平性と透明性を確保できないのではないかと考えられます。ですからパートナー選びは管理組合主導で実施します。とにかく、安すぎえう見積もりには注意しましょう。

安い理由を確認すると、業務内容が想定よりも簡易なことがあります。安すぎる見積もりはしっかりと業務内容を確認しましょう。ちなみに、200戸規模の見積もり参加企業7社の場合のコンサルティング業務の見積もり比較表をご覧ください。

見積もり比較表

 4) 設計事務所選定の手順

具体的な進め方、募集方法、選考手順、選考で確認すべきポイント、総会承認お流れ、契約で押さえておくべき点などは、一般社団法人マンション大規模修繕協議会が提供している「新設計事務所選定マニュアル」を入手してご覧ください。

組合員目線の説明と提案役員の組合員に対する説明責任に寄与
マンション管理に深い理解区分所有法、標準管理規則、各種ガイドライン
適時適切な工事を支える技術と体制調査診断、修繕設計、施工会社選定補助、工事監理、アフター点検

管理組合に寄り添える設計事務所を選びます。

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 5) 設計事務所選びで重要なこと

具体的な進め方、募集方法、選考手順、選考で確認すべきポイント、総会承認お流れ、契約で押さえておくべき点などは、一般社団法人マンション大規模修繕協議会が提供している「新設計事務所選定マニュアル」を入手してご覧ください。

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2 調査診断

 1)調査診断の目的

調査診断の目的

同じ劣化を繰り返さないように、防水端末押さえ金具を改修します。建物調査診断で原因を突き止めて対処し、同じ劣化を繰り返さないように努めます。

工事予算承認のため、適切な工事金額を把握します。

見積もり比較表

 2)調査実施のお知らせ

① 調査概要

 ・ アンケート調査
  ・ 建物共用部調査
  ・ ベレンダ立入り調査

② 調査日程

 ・ アンケート調査    10月1日~10月11日

 ・ 建物共用部調査    10月22日~10月23日
           (内外壁面・屋上・鉄部・シーリング、外構等)

 ・ ベレンダ立入り調査  10月22日~10月23日
           (ご協力いただける住戸のみ実施、作業員2明所要時間20分)

 3)アンケート調査

居住者アンケートを全戸へ実施し、ベランダ立ち入り調査協力を確認。

調査内容(例)

・ 室内の状況(水漏れの有無・場所)

・ ベランダの状況
   (水漏れの有無、ひび割れの有無、鉄筋露出の有無、塗膜剥離の有無)

・ 壁面・手すりの状況
   (水漏れの有無、ひび割れの有無、、鉄筋露出の有無、塗膜剥離の有無)

・ 床面の状況
   (水漏れの有無、ひび割れの有無、、鉄筋露出の有無、水はけの有無)

・ 玄関ドア・窓サッシ
   (開閉の不具合、変形、カギの不調等)

・ ベランダ立入調査協力
   (立入調査協力の有無、立入調査日程の確認)

・ 大規模修繕の要望・意見

 4)建物共用部調査

調査員が共用部を調査

① 目視調査(防水材、建具などの劣化)

② 触診調査(チョーキング)

③ 打診調査(タイルやモルタルの浮き)

④ 物性試験(タイル付着力試験、塗膜付着力試験、コンクリート物性試験、アスベスト含有試験)

 5)ベランダ調査

居住者の玄関から入室のため、立ち合いが必要になります。

ベランダ調査

① 調査戸数
   (全住戸と10%前後、希望者:東西南北・上下)

② 調査個所
   (外壁、床面、サッシ周り、手すり、手すり壁、金物類)

劣化の種類と発生原因

タイルの浮きと塗膜剥離

タイルの浮きは経年劣化によって発生し、進行すると剥離します。塗膜剥離は経年劣化はもちろん、材質の相性、ケレン不足、洗浄不足などの原因は様々です。

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 6)劣化の種類と発生原因

調査員が共用部を調査

爆裂とエフェロレッセンス

ひび割れから水分や空気が侵入し、鉄筋が参加することで堆積が膨張して爆裂が発生します。エフェロレッセンスはコンクリートの中性化を進行させ、鉄筋のサビ、爆裂につながる可能性があります。

 7)調査診断報告書

調査診断報告書

各種調査・試験結果や建物状況写真を取りまとめます。

 8)調査診断報告会

報告書だけで、すべての組合員に理解を求めることは難しいため、建物の劣化状況とア調査診断報告会
ンケート結果に今後の取り組みを説明して、多くの組合員に建物の状況を知ってもらいます。

でも、自分たちのマンションを修繕するというのに興味のある方は以外に少なく、説明会の参加は全世帯の3分の1程度です。

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3 設計事務所の業務

 1)修繕設計

修繕設計の考え方を外装塗膜の断面図で説明します。材料にはそれぞれ役割があります。同じれかを繰り返さない材料広報を提案します。塗料の

上塗り
 中塗り剤以下を紫外線劣化などから保護します。

中塗り
 外壁の劣化原因となる水・塩分などを遮断します。

下塗り
 既存塗膜と取材を密着させる役割を担う。

玄関の改修

玄関の重い開き戸から自動ドアへの改修することで、組合員の生活環境を向上します。

工事中の組合員負担の軽減

玄関の改修

大規模修繕を実施する場合の工事金額の目安予算を考慮せず、今必要な工事を反映させます。

工事概算金額書

 2)修繕積立金の不足対処①

工事先送り(例)

修繕積立金が不足対処①

仮設足場の有無、劣化状況で工事に優先順位をつけます。まとめて実施したほうがトータルをコストを削減できます。これらは総合的に判断します。

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 3)修繕積立金の不足対処②

工事項目・使用の見直し(例)

修繕積立金が不足対処②

塗装のグレードを落とすと後々トラブルの発生も考えられます。設計事務所にメリット・デメリットを確認して判断してください。

 4)修繕積立金の不足対処③

合理的に同時工事ができる項目があるかを考えます。

給水館設備工事(例)

修繕積立金が不足対処③

同時にまとめて工事を行うと、5,800万円(1,150万円の削減)

 5)修繕積立金の不足対処④

外断熱改修  省エネ改修による補助金の活用(例)

修繕積立金が不足対処④■ 当初計画時
    1億2千万円
    予算上、通常の大規模修繕(屋上を除く)
 ■ 補助金活用
    2億1千万円
    補助金 7千万円
    組合実質負担 1億4千万円
    (当初予算+2千万円)
    通常の大規模修繕(屋上工事も実施)

外断熱改修、玄関ドア取替、ペアガラス化、屋上工事も実施

補助金活用は、条件・期日に注意。

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 6)修繕積立金の不足対処⑤

共用部分リフォームローンの活用(例)

工事内容を何度か見直したが修繕積立金が大幅に不足している。

工事延期を検討(前回の大規模修繕から16年経過、各部位の劣化進行)

借入を検討(工事の半分を宿入金で賄う/中間金の支払いに資金が不足しないよう民間のローンを利用)

総会で決議(前回の大規模修繕も借入して実施したため理解者が多い)

今の長期修繕計画で返済できるか設計事務所に相談。

参考 マンション共用部リフォーム有し~住宅金融支援機構

融資条件
  ① 毎月の返済額が毎月徴収する修繕積立金の80%以内。
  ② 滞納割合が10%以内(減速)

その他
  ① 融資金利 年1.1%(2024年3月)
  ② 優遇 年0.2%の金利引下「まんしょんすまい・る債」
  「マンション管理計画認定を取得」
  ③ 返済期間 1年以上10年以内
  ④ 担保不要
  ⑤ 保証金あり(融資金額2,500万円で約64万円)

 7)修繕積立金の不足対処⑥

修繕積立金の値上げ(例)

修繕積立金が不足対処⑤

・ 現状:124円/平方メートル、築28年目で赤字、築52年で71,534万円赤字。

・ 改定A案:124円→353円値上げ、以降、値上げなし(均等積立方式)。

・ 改訂B案:124円→260円値上げ。以降、6年ごとに20円UP、30年後320円。(段階増額積立方式)

・ 改訂C案:124円→240円、以降3年ごとに20円UP。30年後340円。(段階増額積立方式)

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 8)修繕積立金の不足対処⑥

大規模修繕は実数計算方式

① 設計事務所の調査(目視・打診・触診等)手がとどく範囲(全体の20~30%)

② 劣化数量を想定し、設計で工事概算金額書を作成

③ 施工会社の見積書

④ 仮設足場設置後、前面だいsンで劣化数量を確定

⑤ 想定数量と実際の数量を清算(実数積算方式)

工事費が予算を超える場合、臨時総会で決議が必要となるため予備費を計上しておきます。(足場設置後ン全数調査で、調査時にわからなかった劣化・破損が見つかることがある)

予備費は工事費の10%程度を見込むことで安心できます。

 9)設計説明会

・ 実施する工事内容の説明

・ 工事項目

・ アンケートの調査結果と要望工事の実施有無

・ 工事期間

工事期期間中にご協力いただく内容などを説明します。

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4 施工会社

 1 施工会社選定

施工会社選定の流れ(例)

理事や修繕委員の都合を航路しながら進めていくため、予習を持ったスケジュールを組みます。

施工会社選定

 2 施工会社の募集

公募(大規模修繕競技会のホームページ、業界紙など)

推薦(組合員、管理会社など)

推薦の場合は、推薦者が特定されないように公募と同じ手続きを取ります。

 3 設計事務所の役割

組合員の皆様が理解・納得して選定できるようにサポートをします。

設計事務所の役割

推薦の場合は、推薦者が特定されないように公募と同じ手続きを取ります。

 4 施工会社の承認

議案書の記入内容

議案書の記入内容

総会で管理組合の承認を得ます。

総会での承認後、業務委託契約の締結、工事説明会へ進みます。

契約書の内容は設計事務所も確認します。

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5 大規模修繕工事

 1 工事中の住人協力

工事中は組合員の協力が不可欠です。

① 足場養生シートの圧迫感

② 騒音、ホコリ、臭いの発生

③ ベランダの使用制限(選択物干し

④ エアコンの使用制限

⑤ ベランダの荷物の片づけ(網戸の取り外し)

⑥ 通航制限

⑦ sレベーターの使用制限

⑧ 作業員、工事車両の出入り 

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 2 工事説明会

工事前に疑問や不安を解消します。

工事説明会

 3 工事スケジュール

工事の期間は、中規模マンションで4~6か月です。

工事スケジュール

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 3 工事期間の延長

工事内容の変更・追加

・ 足場を組んで全数調査、施工開始後の問題発覚

・ 例)新築時の施工が原因でタイルの浮きが広範囲に及ぶ

天候などによる工期延長

・ 天候などによる工期延長

工事期間延長は心理的な負担だけでなく、工事費の負担が発生します(機材、足場リース代、現場作業員の追加確保など)

費用については協議して決定します。

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 4 ベランダの片づけ

ベランダは避難経路です。避難経路を遮断する物を置くことは禁止されています。

・ ウッドデッキ、床沖タイル
 ・ BS、CSアンテナ
 ・ 植木鉢、ガーデニング用ラック
 ・ 網戸
 ・ ごみ箱
 ・ スキーゴルフバック
 ・ スチール物置

 5 洗濯もの情報

各工事の合間に、洗濯物を干せる時間はあります

ベランダ以外に干す手段を検討する

乾燥機を設置する場合も(使用時間、仮置きボックス、防犯カメラ設置などをルール化します

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6 工事監理

管理組合の代理人として施工内容を確認・始動し、品質を確保します。

 1 種類検査

施工会社が提出した使用材料一連表、施工要領所が設計図書の内容に適合しているか確認・指導。

工程表、掲示板情報など「組合員・居住者目線で作成されているか確認・指導。

 2 材料検査

搬入された材料と納品書、使用量を確認。

塗布量の管理は大切です。

 3 工程検査

・ 工程ごとに施工品質検査を実施、工事指導を行い是正を確認。

 4 中間検査(管理組合立ち合い)

・ 工事の中間期に工事費支払い請求が契約に適合しているか確認。

 5 定例会議

管理組合の代理人として工程を管理し報告します。

① 二者定例会議(決系事務所・施工会社)

・ 1回程度

・ 工事進捗状態の確認及び調整

・ 工程の協議

・ 実数清算数量の確認

・ トラブル発生の指導・調整

② 三社定例会議(管理組合・設計事務所・施工会社)

・ 月1回程度

・ 工事進捗状況報告

・ 実数清算数量の報告・対策

・ トラブル発生の報告・相談

・ 色彩計画の承認

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6 竣工・引き渡し

 1 竣工検査(管理組合立ち合い)

・ 足場解体後の引き渡し前に実施

・ 設計図書通りに工事が行われているか

・ 施工ムラ・汚れの確認

・ 一時退避物が元通りになっているか

・ 是正箇所の修繕がきちんと行われているか

 2 竣工図書の確認)

工事スケジュール

引き渡し後にトラブルがないよう就工図書を確認。

・ 工事完了届       ・各戸の補修確認書控え 

・ 竣工図面・仕様書    ・ 打合せ議事録

・ 烏賊・変更工事の仕様書 ・ 各種保証書

・ 工事記録写真      ・ アフター点検の計画書

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 2 アフター点検

保証期間(例) ※使用・材料によって異なります。

アフター点検

工事ごとに保証期間や条件が決められています。

 3 保証対象の判断事例

屋上の露出梁
 保証対象内 表面のコンクリート欠損、木片がコンクリートに埋まっていた欠損部分を撤去、モルタル補修。

判断事例

手すりの基礎
 保証対象外 手すり基礎のひび割れ、修繕範囲外のため保証対象外、手すりの基礎は他の基礎につながっていて構造上の問題はなし、経過観察で対応。

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 3 最後に 

適時適切に大規模修繕を実施するには?

・ 信憑性の高い調査診断

・ 費用対効果の硬い修繕設計(提案力)

・ 質の高い施工とそれを担保する工事監理

自分たちも知識を身に付けて大規模修繕を進める意識が大事です。

参考文献:大規模修繕協議会など。