1 なぜ高い修繕費用
1 木材の焼失
世界で森林火災が悪化しています。米シンクタンクの報告で、山火事により年800万ヘクタール以上の森林が焼失し東京都の約40倍の面積になりました。山火事で失われた森林の年間の平均面積は、2022年までの3年間に831万ヘクタールにもなります。
2024年は、約100人の死者が出たハワイ・マウイ島の火災のほか、カナダ、ギリシャ、ポルトガル、チリなど各地で大規模な山火事が相次いでいます。焼失面積はこれまで以上に大きく増える見込みです。
森林火災の悪化につながる要因として、米シンクタンクは地球温暖化をあげています。森林火災の発火の直接の原因は落雷や火の不始末など様々ですが、高温と乾燥した気候は自然鎮火しにくく、燃え広がりやすくなっているのです。
影響を特に受けているのがシベリアやカナダ、北欧などで、乾燥すると燃えやすい針葉樹のトウヒなどが燃えました。19~20年にかけてオーストラリア、22年に米カリフォルニア州で大規模な火災が起き、燃えにくいとされる地域でも山火事が増えています。
自然発火は乾燥化が進むことで発生します。乾燥が進行すると落ち葉や空気中の水分が失われ、枯れ葉は風などでお互いが擦れあうことで摩擦を起こし火がつきます。燃え方や広がり方によって他の枯れ葉や枯れ草、木々などに燃え移ることで森林火災となります。
森林火災を大規模化させる原因として「フェーン現象」が挙げられています。フェーンとは風下側に吹く乾燥した高温の風のことであり、この風が吹いた地域の温度が非常に高くなる現象です。
高温で乾燥した風であるため、火災が起こっているところに吹けば、火の手を広げるだけでなく、別のところからも出火させる恐れがあります。アメリカやオーストラリアでは自然発火によってたびたび森林火災が起こっていました。
山や森林などで起こした焚き火や火入れ、放火、たばこの火が要因となり森林火災を起こしています。火から目を離す、火をしっかり消していないといった行為により、枯れ草や木々に火が燃え移り、森林火災へと発展しているのです。
国連環境計画は、山火事が大規模になるリスクは2030年までに14%、2050年までに30%増加するとしました。近年の気候変動で林木の生育が不安定化し、森林火災が増加したことで林木が不足し始めました。
地球温暖化や気候変動による、異常少雨や干ばつなどの影響により、自然発火による森林火災が増加しています。このため建築資材となる木材が不足しています。一方、林野庁によると日本では山火事の発生件数自体は増えていません。
2 工事費の高騰
建築工事費はこの3年間で17%上昇しました。作業員の労務単価は12年前の75%以上となり、12年連続で上昇しています。これらのことから、建築資材費はこの3年間で急激に27.5%も増額しました。
さらに、建築業界にも2024年問題が波及し、働き方改革関連法の建設業への適用、残業時間の上限規制、週休2日制の確保、省エネ性能基準適合義務化と建築物の省エネ性能表示制度、EXPO2025大阪関西万博など、工事費が治まる要因はありません。
大規模修繕は予防保全と計画修繕と言われます。予防保全とは、施設に機能や性能の不具合が発生する前に修繕等の対策を講じることで、計画修繕とは、施設に機能や性能の不具合が生じてから修繕等の対策を講じることです。
精度の高い長期修繕計画を立てて、適時適切に大規模修繕を実施することが大切です。長期修繕計画というのは、修繕を適切に行うために30年以上(2回目の大規模修繕を含む)を見通し修繕積立金を算出します。
管理計画認定制度に準拠する長期修繕計画が必要です。管理計画認定制度とは、地方公共団体が適切にマンションを管理しているマンションを認定する制度ですが、このような制度があることを知ろうともしないマンションが多いのも現状です。
申請のポイントは、神奈川県マンション管理士会が2022年12月に作成したものをお借りしました。
地方公共団体へ管理計画認定制度適用の申請をする際に、申請のポイントとなる事項を表にしたものです。あなたのマンションの長期修繕計画を見ながら、これらのポイントを押さえて検討されてはいかがでしょうか。
3 修繕積立金のガイドライン
修繕積立金の目安となるガイドラインは、2021年9月に改訂されました。
改訂後の修繕積立金の目安について補足すれば、超高層マンションは「階数/建築延べ床面積」は20階以上の目安になります。それ以外のマンションは供給量が少なく目安算定に用いる事例も十分でないため「15階未満」を目安にしています。
建築延べ床面積が5000~10000平方メートル未満の中規模マンションで、修繕積立金月額平均値252円の場合は平方メートル当たり50円、70平方メートルの住戸では3500円の値上げが必要になってきます。これでも足りない場合もあります。
あなたのマンションの長期修繕計画が向こう30年間で作成されていても、支出金額を減らすために工事をあえて先送りしているケースもあります。(実質、修繕積立金が足りていないため)。あなたのマンションの長期修繕計画を確認しましょう。
長期修繕計画をチェックするときのアドバイスとしては、「標準的な工事項目が含まれているか、単価の算出根拠があるか、使用や工法に問題はないか、単価はどこからの数字か(過去の修繕実績、経験値、標準単価等)」をチェックします。
チェックが難しい場合は、大規模修繕協議会へご依頼いただくと専門の相談員が長期修繕計画を確認して、アドバイスをしてくれます。
2 大規模修繕の進め方
1) 大規模修繕の発意
大規模修繕は早すぎても遅すぎても問題です。理事長や理事は、マンションの隅から隅まで点検して、建物の傷み状況から判断します。
① 長期修繕計画で大規模修繕の予定を調査します。
② 管理会社から提案がある場合もあります。
③ 小修繕が多発して、原因から修繕が必要と感じられることもあります。
2) 体制の整備
理事会で判断するために必要な情報を収集し、総会の承認を受けられるように準備をします。候補となる設計事務所、施工会社の選出などを検討します。理事会の主導で進める場合もあります。
3) 修繕委員会の必要性
大規模修繕を継続的に検討できる組織が必要です。修繕委員会のメンバーは、総会での発言やマンション管理への主体的参加、マンション管理の知識のある方、ボランティアの経験のある方などから選出します。
① 工事期間は準備から竣工まで2年程度と長期に渡る。
② 活動している理事会は、通常の組合運営で多忙ですから負担を分散すべきです。
③ 理事の任期は1~2年と短く、しかも輪番制ですから検討が断続します。
④ 大規模修繕を進めるためには、ある程度の専門知識が必要になります。
4) 修繕委員の募集方法
総会で修繕委員会の設置を提案して承認を受け、その場で募るとスムーズに委員を選任できることが多いようです。
修繕委員が集まらない場合は、掲示板や広報紙で周知し、修繕委員応募用紙を各戸に配付して立候補者を募ります。それでも集まらない場合は、過去に大規模修繕を経験された方や、修繕工事に立ち会った方々を個別に訪問して引き受けてもらいます。
修繕委員の対象者:
① 意識の高い人
② 理事長や理事経験者
③ 建築関係者
④ 総会出席率が高い人
5) 情報収集
① セミナー等
札幌市内では公的機関の無料セミナーや、私的団体の大規模修繕セミナーが無料で開催されています。管理会社や修繕専門会社が開催するマンション管理セミナーもあります。新聞や広報紙等に掲載されているので、誰でもいつでも参加できます。
これまで私が出席したセミナーは73講座ほどありますが、いづれのセミナーも参加者の熱気があふれていました。残念なことは、私の居住マンションの理事も住人もセミナーに関心を持たず、誰一人参加する人がいなかったことです。
② 参考書籍類
国土交通省のマンション管理・再生ポータルサイトには、マンションを末永く住み良く保つために、適切な維持管理と計画的な修繕計画の作成、これらを確実に実行する管理組合の運営が必要不可欠として、国の政策やリーフレット類が掲載されています。
情報誌や季刊誌、小雑誌の活用も大切です。情報紙には、マンション管理新聞(オンライン版・無料購読申し込みができます)、大規模修繕工事新聞(電子版の無料購読申し込みができます)等があります。
公益財団法人マンション管理センターから、マンション管理組合新任理事のための基礎講座、マンション管理の知識、マンション管理組合による自主点検マニュアル~マンションを自分たちで守るために~などが発行されています。
また、計画修繕工事実務マニュアル、マンション管理組合のための震災対策チェックリストも必見でしょう。また、公益財団法人マンション管理センターからダウンロード可能な印刷物もあります。クリックして確認してください。
北海道庁建設部住宅局建築指導課より、「マンション管理100のQ&A」「マンション管理ガイドブック」「マンション管理修繕トラブル事例集」をダウンロードできます。故寺地信義一級建築士が主宰されていた「北海道マンション問題(相互)支援ネットワーク」の提供資料も掲載されています。
一般社団法人マンション大規模修繕協議会には、「これだけは押さえる!建物自主点検マニュアル」「これだけは押さえる!大規模修繕の進め方」「新・長期修繕計画の手引き~改訂版」「新長期修繕計画の手引き~改訂版」等の参考書等があります。
また、「新設計事務所選定マニュアル」「新施工会社選定マニュアル」「給排水設備自主点検マニュアル」等のオリジナルマニュアルも揃い、資料は原価で入手できます。またマンション大規模修繕新聞(オンライン版)の無料購読もお勧めします。
私が理事長のときに参考にしたのは「マンション管理ガイド」(日経BP社)と「マンション管理の診断マニュアル」(オーム社)です。また、大規模修繕に挑戦したときは、「マンションの大規模修繕」(株式会社学芸出版社)と「既存マンション躯体の劣化度調査診断技術マニュアル(案)」(独立行政法人建築研究所)などを参考にしました。
6) 現状確認
理事長はもちろん理事会や住人の建物自主点検も必要です。春夏秋冬のシーズン毎に、建物の状態を自分たちの目で確認する必要があります。管理会社に任せておけばというのは安易な考えです。マンションは住んでいる人たちの財産なのです。
住んでいる人たちが建物に無関心であれば、管理会社も建物管理に無関心になり、管理員も目視点検を怠ります。考えてもみてください。マンションを購入した人や、居住者が組織した管理組合の理事が無関心なことを、赤の他人が真剣にやると思いますか。
私は初代理事長になったとき、管理会社の管理担当者や管理人の仕事ぶりを見て、私がやらねば誰がやると決断しました。25年間赤の他人の建物管理を見て、建物管理に関心がなければ管理会社の食い物にされることを体験しました。
町内会役員も兼任していたので、防犯防火対策の一環で賃貸マンション等の建物内部も巡回していました。国勢調査員の時はオートロックを解除してもらい、建物内部の共用部の様子も把握できました。多くの建物は清掃状態が最悪で、防犯対策も皆無状態でした。
建物内部の階段天井にはクモの巣が張り、通路には玄関から吹き込んだ土やごみが小さな山脈を形成しています。足元には泥まみれのチラシ類が散乱し、灯油タンクなどの物陰にはチラシやパンフレットと汚れた雑巾類が捨てられていました。
管理費は共同で使う通路や階段の清掃費用、電灯などの各種設備に使われる電気代などを入居者から徴収した管理費から支払うことになりますが、賃貸マンションの管理会社は電灯などの各種設備に使われる電気代などを支払うだけで他は無関心のようです。
理事会は、建物管理を他人に任せず自ら行うべきと考えましょう。総会にマンションツアーを提案し、自らの建物は自ら点検しましょう。マンションという建物の隅から隅まで自主点検して、住民と共に不具合や破損個所を発見して直ちに補修しましょう。
見ていなかったために補修費用が高くついた、インターロッキングの破損放置で人身事故が起きかけた等ということを防止しましょう。点検箇所は、図書及び文書類、屋上、共用部(階段・廊下・玄関など)、建物外周(外部建具・外壁)、敷地内(外構、自転車置き場)などです。
7) 建物自主点検の成果
左下の写真は、建物の自主点検をしている時に、ベランダの天井に当たる部分に発見したエフエロレッセンスです。右下の写真は、通報で点検すると、上階のボイラーバブルから漏れた水が部屋の鴨居から落ちていました。
左上の写真は、屋上を点検していると影になっている防止層が縦に裂けていました。右上の写真は、屋上塔屋の換気口の鎧戸がさび付いて開かなくなっていました。
左下の写真は、屋上エレベーター機械室の扉が雨水で腐食していました。右下の写真は屋上塔屋にたまった水が流れ落ちて跳ね返り、屋上出入口の水切り板の下の鉄板を腐食させて爆裂させていました。
左上の写真は、受水槽の内部清掃時にホースから漏れた水がかかり腐食した受水槽の架台です。右下の写真は、道路から雨水が流れ込み陥没したインターロッキングです。
8) 建物自主点検の様子
総会にマンションツアーを提案した理事会は、建物管理を他人に任せず自らの建物は自ら点検し始めたマンションンです。一般社団法人マンション大規模修繕協議会の相談員に専門的な説明をお願いすることもできます。
理事会は打診棒を用意しておくと、マンションツアーの参加者は外壁タイルや床タイルの浮きを確認することができます。打診棒の先端についている玉を検査するタイルの面に充ててこすると、タイルが浮いていれば独特の音がします。体感することも大事です。
9) 実施検討
他の管理組合はどのように大規模修繕を進めているのかといいますと、設計管理方式を8割以上の管理組合が採用しています。下の表は、国土交通省が2021年に実施したマンションの大規模修繕工事に関する実態調査結果を見てもわかります。
・設計管理方式 建築士を有する建築設計事務所・建設会社・管理会社を選定し、合意形成までの段階では、調査診断・回収設計・施工会社の選定・資金計画などにかかる専門的、技術的、実務的な業務を委託し、工事実施段階では工事監理を委託する方式です。
・責任施工方式 建築士を有する施工会社(設計・施工・監理部門を有する建設会社や管理会社)を選定し、調査診断・改修設計・資金計画から工事の実施までのすべてを請け負わせる方式です。
・CM方式 コンストラクションマネージャー(CM)と呼ばれる専門家が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工事監理・コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行う方式です。
・ECI方式 設計段階より施工者の技術力を設計内容に反映させ、施工の数量・使用を確定した上で工事契約をする方式です。
10) 設計管理方式と責任施工方式
透明性・公平性の面から、設計事務所をパートナーとした設計管理方式を推奨します。
11) 広報などで周知
居住者の立場や考え方は様々です。情報を共有して、大規模修繕の必要性を理解してもらいましょう。
広報紙やアンケートなどで情報を提供します。
12) 総会で承認
・ 工事実施の承認
大規模修繕を実施するには総会決議が必要です(標準管理規約第48条)
・ 実施方式の承認
設計管理方式で進める場合は、調査診断設計監理費予算の承認と設計事務所選定の手順についても合意を得ておくと総会承認がスムーズになります。
・ 設計事務所選定からアフター点検まで
① 設計事務所選定、② 調査診断、③ 修繕設計、④ 施工会社選定、⑤ 工事、⑥ 工事監理、⑦ 竣工・引き渡し、⑧ アフター点検。
参考文献:など。